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「出星前夜」~待った、読んだ、泣いた

出星前夜

出星前夜」(飯島和一、小学館)

前作「黄金旅風」発表からおよそ四年を経ての新作である本作は、その前作から時代的には引き継がれる形での物語となっている。

九州島原の地での圧政に苦しむ農民たちが、既に禁制となっていたキリスト教を復活させ、絶望的な反乱を起こし、それがついに「島原の乱」へとつながっていく。史実によるまでもなく、農民蜂起が敗北に終わるのは必然であり、つまりは「敗者の物語」であるわけだが、それを単純な悲劇や、戦闘のスペクタクルに仕立て上げないところがこの作者らしい。

作者・飯島和一は、この作品では徹頭徹尾怒っている。幕藩体制の維持だけを目的として国家を運営する徳川幕府に対して、その幕府に姑息なまでに媚びへつらい、挙げ句に領民を極限まで搾取する藩主に対して、そして更にそうした圧政に、絶望からの暴走のみにしか希望を見いだせない農民に対して。そしてその怒りは、間違いなく現代の日本そのものへの怒りであろうことが、ひしひしと伝わってくる。

それにしても、彼の文章の重厚さと、そこから滲み出る取材の厚みはただ事ではない。例えばある人物の登場シーン:

寿安(ジュアン)はたったひとりで、甚右衛門たちの前に姿を現した。打ち刀一振りを腰に、柿渋(かきしぶ)色の麻の単衣(ひとえ)と野袴(のばかま)、草鞋履きで、赤い直垂(ひたたれ)も羽織っておらず、禿(かむろ)にしていた髪は後ろで結い束ねていた。(カッコ内は原文ではルビ打ち)

この一文をものするのに、どれだけの知識の裏打ちが必要とされるのか、まさに想像を絶する。形こそ「黄金旅風」からの続きに見えはするが、やはりこれは別個の独立した作品として書かれたものだろう。(とはいえ、やはり「黄金旅風」を先に読んでおいたほうが、ずっと深く本書を楽しめるのは間違いない)

唯一物足りないのは、前半に登場する魅力的な登場人物である長崎の医者・外崎恵舟と、南蛮人の血を引く若い農民・寿安の活躍が、後半では「島原の乱」の背後に隠れがちであったことだろうか。この作家の他の作品にも共通する「おのれの技量を最高度に発揮する庶民」の物語と、原城攻防戦をピークとする農民蜂起の巨大な物語とのバランスを図るのは、いくらなんでも至難の業だったかもしれない。

とはいうものの、読んでいる間はまさに巻置くあたわずの感がある圧倒的な大作。歯応え充分で、なおかつ消化に少々手間取りそうではあるが、ずっしりと腹に残る一冊である。

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