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「春の祭典」をめぐる~「名曲をめぐる」より

(承前)

「春の祭典」初演時の騒動は良く知られているところだが、その晩のことについて、コクトーが書いたとされる文章が「名曲をめぐる」に紹介されているので、以下、引用してみる:

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 ストラヴィンスキイ、ニジンスキイ、ディアギレフの三人と一しょにコクトーが劇場を出たのは朝の二時でした。そして四人は辻馬車の中に目白押しになってブーローニュの公園へ行ったのです。そのときのことを回想しながら、コクトーはこう書いています。

 だれも黙っていた、夜は爽やかだった。アカシアの匂いにわれわれは最初の樹々をみとめた。池に着いたとき、こもりねずみの毛皮にくるまりながらディアギレフはロシヤ語で微吟しはじめた。僕はストラヴィンスキイとニジンスキイがそれに聞き入っていることを感じた。馭者が提灯をつけると、この興行主の顔には涙が見えた。彼はゆっくりといつまでも微吟しつづけた。
「なに?」と僕はたずねた。
「プーシキン。」
 ふたたび長い沈黙があった。それからディアギレフはまた短い句をつぶやいた。すると二人の隣人の感動は、その理由を知るために僕が口を挿まずにいられなかったほど著しいようだった。
 「訳しにくい。じつに訳しにくいんです。あんまりロシヤ語すぎる。あんまりロシヤ語すぎる。そうですね、島へ旅したいのかとでも訳すんでしょう。うむ、そうなんです。だが、なにしろロシヤ語すぎますね。なぜかというと、ロシヤでは今夜われわれが公園へきたように島へ行くんです。そしてわれわれが春の祭典を考えついたのは、その島へ行く途中だったのです」とストラヴィンスキイはいった。
 はじめてこの晩のスキャンダルがほのめかされた。われわれは明けがたに宿に帰った。これらの人たちの優しみと郷愁を想像することは諸君にはむずかしい。その後ディアギレフが何をしたろうとも、ブーローニュの公園でプーシキンを誦したあとの辻馬車の中の、涙に濡れた彼の大きな顔を僕は永久に忘れないだろう。

*********

ディアギレフが口ずさんだプーシキンが、なんという詩のことなのか、僕は未だに知らずにいる。

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