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「発火点」~真保流「青春小説」

発火点
真保 裕一〔著〕

主人公であり語り手の敦也は、12歳のときに父親を殺された過去を持つ。犯罪被害者の家族として、周囲の好奇の目と憐憫にさらされて育った彼は、21歳の夏に出会ったある出来事を契機に、初めて過去の事件を見つめることになる。父が死に至るまでの回想と、21歳の彼が改めて事件の真相に迫る過程がクロスした時、いったい何が起こるのか・・・

ミステリタッチではあるものの、これはまぎれもない青春小説であり、直接的ではないにせよ、いくらかは著者自身の自伝的要素も盛り込まれているように思える。

犯罪被害者として特別視されることに耐えられず、職を転々とし、周囲の人間と深いつながりがもてない敦也。ある出来事をきっかけに、彼がいかに「被害者意識」に甘えていたかを気づかされる過程と、父親が殺された12歳の夏の模様が、交互に語られる。

父親の死の真相を探る旅は、同時に彼の失われた12歳の夏を取り戻す旅でもあった。父親が殺されるまでの12歳の夏の日々と、過去のトラウマから逃げるように送る21歳の日々を、著者はていねいにじっくりと描いていく。

最終的には、敦也は父の事件の真相に辿りつくと同時に、ある人物との再会を果たして、二つの旅の決着をつける。だが、すべてが終わったその後に、もう一つのエピソードが待っていた。真保裕一らしい、心憎いエンディングである。

正直なところ、文庫版570ページは少々長すぎる気がするが、これも作者の思い入れゆえのことだろう。喪失と再生という、作者の得意パターンをしっかりと押さえた、上質のエンターテインメントである。

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