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「小説家を見つけたら」

小説家を見つけたら

ガス・ヴァン・サント監督(録り溜め消化シリーズ、NHK-BS)

ニューヨーク(ブロンクス)のスラム街出身ながら、バスケットと文芸に特異な才能を持つ少年と、デビュー作に最高の賛辞を受けながら、以後文壇を去って、隠遁生活を送る老作家・フォレスター。偶然出会った二人が、師弟として、友人として、あるいは「家族」として、お互いを認め合い、それぞれに再生あるいは成長していく物語。

特異な才能を持つ天才肌の少年が、自分自身と折り合いをつけつつ成長していく姿は、同じ監督の「グッド・ウィル・ハンティング」に似ているが、あちらが正真正銘の天才だったのに対して、こちらの黒人少年は、努力型の秀才である。

彼の成長には努力が不可欠であるから、そこにはどうしても「教師」が必要となる。偶然出会った老作家(ショーン・コネリー)は、知らず知らず少年の教師になってしまうのだが、その行為はそのまま、彼にとっての課題・・・「なぜ自分は隠遁生活を続けているのか」・・・を問い直す行為になっていく。

少年の傍若無人なまでの成長ぶりも頼もしいが、やはりフォレスターの再生の過程が感動的だ。人は、自分以外の人間に自分の持っている知識やノウハウを教えることで、代え難い充実感を得ることができるし、更には自分自身を新たに成長させることもできる。「自分のため」だけに閉じていた世界が、「誰かのため」に開かれることで、自分を取り巻く環境が再構築されるのだ。窮地に陥った少年を救うために、フォレスターが自転車で颯爽と街を走るシーンが、素晴らしく力強く、美しい。

少年の才能を認めながらも、その才能の急激な成長が受け入れがたいという指導教官の役に、F・マーレイ・エイブラハム。ここでもサリエリ役をやらされている。少年のクラスメートで、彼に好意を寄せる白人の少女は、アンナ・パキン。「ピアノ・レッスン」の娘役だったと記憶しているが、全然気がつかなかった(当たり前だ)

結末は少々ほろ苦い。が、少年と老作家が、それぞれの道で、新たな成長を果たしたのは確かだ。しみじみと心に残る秀作。

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フォレスターのモデルは、当然ながらサリンジャーだろう。おお、サリンジャー、マイ・アイドル。彼自身が生み出した二人の若者(ホールンデンとシーモア)のために、そして恐らくはシーモアを死なせてしまった(「バナナフィッシュにうってつけの日」)がために、彼はどこにも行けなくなってしまった。今でもまだ生きていて、どこにも発表されるあてのない文章をタイプし続けているのだろうか。

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コメント

はじめまして。TB&コメントどうもありがとうございました。

フォレスターのモデルが、ぼくの敬愛する作家J.D.サリンジャーであるかもしれない、という説には驚きました。
そういえば、隠遁生活を送っているサリンジャーにぴったりですね。

今後ともよろしくお願い致します。

投稿: デイヴィッド・ギルモア | 2006.01.26 01:29

>デイヴィッド・ギルモアさん

こちらこそ、TB&コメント、ありがとうございました。
いやあ、「隠遁してる作家」っていうと、サリンジャーしか思い浮かばないんですよ(笑) ほんと、まだ生きてるんでしょうかね・・・

投稿: yuji | 2006.01.29 11:06

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