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「思い出トランプ」

思い出トランプ」(向田邦子、新潮文庫)

この夏、恒例の「新潮文庫の100冊」コーナーを眺めていて、この本の表紙が目に入り、そういえばこれはまだ読んでいなかったと気づいたら、そのままレジに持っていっていた。

トランプの数に合わせた13編の短編集だが、どれも本当に巧いなぁ、と感心する。本作が雑誌連載中に、発表済みの「かわうそ」「犬小屋」「花の名前」三編で直木賞を受賞しているが、それ以外の作品も、それぞれに味わい深い。

どの登場人物も、どこにでもいそうな市井の人々であると同時に、およそ美男美女とは言い難いところがいい。たとえば、「だらだら坂」に出てくる、主人公が囲っている若い女(トミ子)の描写:

馴染んでかれこれ一年になるが、何度見ても細い目だなと思う。目というよりあかぎれである。笑うとあかぎれが口をあいたようになった。
(中略)
トミ子は涙をこぼした。小さなドブから水が溢れるように、ジワジワビショビショと涙が溢れた。

思いがけず冷徹な筆致で描写される、どうしようもなくみっともない人間たちではあるが、彼らに対する作者の目は、やはり限りなく優しい。短編小説の見本のような名作群である。

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コメント

yujiさん、こんにちは!

私はこの正月に「思い出トランプ」を図書館で借りて読んだのですが、yujiさんはすでに夏?に読んでいたのですね。この記事、覚えております。ほんとどれも名作ですよね。
私は向田作品を子供の視点で見たり読んだりしていたのですが、今、自分がその大人になって読み返すと、ジワジワしみこむものがあります。

どうもありがとうございます。
今年もよろしくお願いいたしますね。
ではまた!

投稿: chiiko | 2006.01.19 11:01

>chiikoさん

コメント&トラックバック、ありがとうございます。
この文庫本、夏に買ったのを、秋になって読みました(笑) この年齢で読むと、なんとなく身につまされるものがありますよね。

こちらこそ、今年もよろしくお願いします!

投稿: yuji | 2006.01.21 08:23

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地味な正月を過ごしたので、いまだ私のなかで正月気分がだらだら坂のように地味に続い [続きを読む]

受信: 2006.01.19 10:54

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