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「約束の地」

約束の地
志水 辰夫〔著〕

今やすっかり「抒情の名手」、志水辰夫、久々の冒険小説である。(以下、ネタバレはしないつもりだが、いちおうミステリ系小説なので、未読の方は、読まないほうがベターかも)

戦災で孤児となった主人公・渋木祐介は、戦地から帰還した祖父と共に暮らしている。ある日、祖父のもとに、奇妙な黒曜石のかけらが届けられた日から、祐介の数奇な運命が幕を開ける・・・

戦後の混乱期から物語は始まり、祐介の成長と共に、ほぼ現代までが語られる。祐介の出自の秘密が明らかになるにつれ、それ自身が引き寄せるかのように、現代史の闇の部分が彼の周囲に現れ、彼は否応なしにいくつもの事件に巻き込まれていく。

全体の構成はしっかりしているし、個々のエピソードはスケールが大きく、語り口も(「志水節」こそ出てこないが)滑らかで、二段組み437頁の長編ながら、スイスイと読める。だが、要するに、それだけ。

中盤、舞台がヨーロッパに移り、民族間の対立や謀略みたいなものが絡み出すにつれ、スケールこそ大きくなるものの、抱え込むテーマが大きくなり過ぎ、物語の中で消化しきれなくなっているように思う。

もちろん、因果応報というか、過去の亡霊が蘇るかのように、ばらばらだった謎やエピソードが、次々に明らかになってくる終盤のカタルシスは、なかなかに見事だ。とはいえ、やはり欧州を舞台にしたことで、物語全体が拡散してしまったような気がする。

志水辰夫の(初期の)冒険小説の魅力は、背景にどんな国際的謀略が絡んでいても、主人公達が闘う場所が、徹底的にドメスティックなことだと思っているだけに、小説の展開上とはいえ、あっさり欧州各地を舞台にしてしまうのは、少々安易に感じてしまう。主人公を一種のコスモポリタンとして描きたかったということもあるのかも知れないが、それでもやはり、日本国内で勝負させて欲しかった。

それと、祐介の終盤の闘いは、かなりの部分を、その財力によっている。より金を多く持っているほうが優勢というのは、資本主義的に正しいのは確かだが、少々寂しい感じがしないでもない。(←貧乏人のやっかみ)

文句ばかり書いてしまったが、小説としては、とても面白い。特に前半部分は、祐介の成長記として、よく出来ている。国際謀略渦巻く後半は、デキのいい落合信彦といったところだろうか。(褒めてます、もちろん)  

次回作がどういう方向に向かうのか。かなり興味のあるところだ。

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