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「道草」

夏目漱石「道草」」(ちくま文庫版全集第8巻所収)を読んだ。

漱石唯一といっていい、自伝的というか、私小説的内容(というより、まんま私小説)の作品。時期的には、英国からの留学帰りの頃から、「猫」で作家デビューする直前ぐらいまで、ということらしい。

私小説ではあるものの、物語としては、なかなか面白い。自身の複雑な生い立ちの挿話や、その回想。養父母に対する、複雑な感情。自分の兄姉達や、更には義兄(姉の夫)、そして妻とその実家等々、縁戚関係の人々への漱石の思いや、微妙な感情のやりとり・・・ こういった、漱石を巡る、彼の人生のある期間のスナップが描かれるわけだが、話の中心に、「突然彼の前に現れた元養父と、彼が引き起こす面倒」といったエピソードがあるため、一編の小説としてのまとまりが良い。

それにしても、ここで語られる漱石の鬱屈たるや大変なもので、確かに彼自身の偏屈さが本人をより鬱々とさせているとはいえ、彼を取り巻く状況も、かなり重苦しいものがある。本人の性格の問題プラスこの環境が、彼をして「エゴイズム」を終生のテーマとして考えさせることとなったのは、当然と言えそうだ。(もっとも、読んでいて、もう少し奥さんに親切にしてやってもいいんじゃね?、なんて思うのは、僕が今の時代の読者だからであろうか)

薄明るいような、逆に薄暗いような結末は、「」のラストにちょっと似ていて、アイロニカルな諦念に満ちている。

未完の遺作「明暗」の直前の作品、ということは、これが実質的な絶筆ということになるのか。漱石は、こういうタイミングで、自らの人生を振り返る作品を書き上げたのだった。

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