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「愛の領分」

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藤田宜永「愛の領分」(文春文庫)を読んだ。

艶紅(ひかりべに)」(文春文庫)、「壁画修復師」(新潮文庫)と読みついできて、いよいよ直木賞を受賞した本作に辿り着いた。

まず、主人公・淳蔵の職業が、仕立屋(テーラー)というのがいい。身近なようでいて、実は知らないことばかりの世界なわけだが、作者の巧みな描写で、その仕事がどういうものかが、伝わってくる。「艶紅」では、調べたことがそのまま文章になってしまったようなところもあったが、本作では、そのへんの加減も良くなっている。そしてもちろん、その職業の描写が、そのまま主人公の性格を映してもいるわけだ。

物語が取り立てて面白いわけではないが、全編を通じて立ちのぼる、濃密にして妖艶な雰囲気が、読むものの手を休ませない。単行本刊行時の帯にあったコピー、「不倫でもないのに、秘密の匂いがする」という言葉がぴったりだ。

そして、本作の底に流れる、ある種の諦念が、作品に深みを与えているように思える。

「どんなに立派なものでも、着物に合わない帯がある。帯に合わない着物がある。(中略) そんなふたりを結びつかせてしまったのは、俺だけど、やっぱり、愛にも領分があるって思うんだ」

恋愛小説の秀作であると共に、心理小説としても、良くできていると思う。奥方・小池真理子の、同じく直木賞受賞作(本作より先に受賞)の「」(新潮文庫)への返歌、と僕には読めた。

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