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「坑夫」

「坑夫」(ちくま文庫版全集第4巻所収)読了。

以前、村上春樹「海辺のカフカ」を読んだ時に、田村カフカ君がこの「坑夫」を読んで、大島さんと印象を語り合う場面があって、それがずーっと記憶の片隅に残っていた。(その時点で、僕はまだ「坑夫」を読んだことがなかった)

で、その「坑夫」である。

確かに不思議な作品だ。主人公の一人称で語られる物語は、陰惨な内容とは裏腹に、まるで「坊っちゃん」のように飄々としている。「~だったんである」なんて語り口で、生き地獄のような鉱山の模様を語られたって、ちっとも深刻に聞こえないってなもんだ。

それでも、この「坑夫」という作品は、僕にはとても印象的に思えた。そう、カフカ君や大島さんにとってそうであったように。

深刻さの無い語り口でありながら、鉱山長屋の薄暗さ、坑夫たちの顔色の悪さ、南京米の不味さ、湿った布団の不快さ、そして坑道内の暗さ、水の冷たさ、空気の薄さ、そんなものが伝わってくるように思えるのだ。(解説では「つくりものという観をまぬがれない」とばっさり評されているが)

鉱山(銅山)に象徴される社会の不条理や、そういう境遇を甘んじて受け入れる人間の強さや弱さ。そういうったものを描き込めば、現代的なルポルタージュか、一種の社会派小説にも成り得た作品なのだと思う。そんな、漱石自身の足腰の定まらなさが、結果としてこの作品の評価を、あいまいなものにしてしまっているのかもしれない。

吉村昭の「高熱隧道」を、坑夫側から描いたら、もしかしたらこんな話になるのかもしれない、などと思ったのだった。

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