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「黄金旅風」

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飯島和一「黄金旅風」を読んだ。

1988年のデビュー作「汝ふたたび故郷へ帰れず」以来、この作品がまだ長編5作目という、超寡作家であるが、一つ一つの作品の重厚さは半端ではない。読んでるほうも、あまりの筆力に圧倒されまくりである。

で、この「黄金旅風」だが、江戸時代初期の長崎を舞台に、二人の男の物語を中心に、国際都市・長崎の様子、切支丹弾圧の模様、幕府や諸国大名の野心、当時の東アジア海域での勢力争い等々が、一大絵巻のように描かれていく。

彼の作品に共通して登場するのに、腐敗した時の権力に対して、空想的な抗議行動などではなく、己のスキルを最大限に生かすことで、立ち向かっていく庶民というのがある。そういった人物は、「雷電本紀」では相撲取りであり、金物商いであり、「始祖鳥記」では表具師であり、塩問屋であり、船乗りであり、「黄金旅風」では、火消しであり、鋳物師であったりするわけだ。

己の為すべきことを見極め、余計な野心など抱かずに、スキルを磨き続けることの大切さ。翻って、自らの、人間としての矮小さを隠蔽するがごとくに、「大義」を振りかざす「権力」に対しては、こんな文章が出てくる。

和国日本やら、江戸幕府やら、何にせよ大げさな大義などというものを平左衛門は持ち合わせてはいない。むしろ平左衛門は、馬鹿げた大義には憎しみに似た感情すら抱いている。大愚を行う者は必ず大義を振りかざし、結果最も弱き者が悲惨を見ることとなる。

もう一つ、引用しよう。

将軍の政治目的がまず先行し、それに合わせて法を解釈するようなことは、何よりも幕府法の失墜と政(まつりごと)の腐敗とを招く。

優れた小説は、巧まずして、優れた警世の書となりうる、と思う。

私見では、やはり最高傑作は「始祖鳥記」であろう。興味のある方は、まずこちらから読むことをおすすめする。

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コメント

はじめまして。
TBさせていただきます。

投稿: straycats | 2005.05.06 15:54

straycatsさん、はじめまして&トラックバック&コメント、ありがとうございます。
「黄金旅風」をキーワードにして、ここを訪れてくださる方が多いので、なんだか嬉しく思っています。そちらにも、コメントさせてもらいますね。

投稿: yuji | 2005.05.07 01:13

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